エンジンメモ2020
crAsmビジュアルノベルリスト2020の投稿作品が非常に様々なエンジンで制作されていたので、エンジン紹介付き作品一覧を作成してみました。
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いずれも2020年11月中旬時点での情報です
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主に公式サイト・wikipedia・日頃見聞きする情報などを元に書いています。過度に信用しないでください。また、誤記などございましたらお申し付けください。
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各エンジンの使用経験やプレイ経験にバラツキがあるため、バイアスがかかっている部分もあるかと存じますがご了承ください
参考)crAsmビジュアルノベルリスト2020 エンジン別投稿作品数
【現役エンジン】
Artemis Engine
2009年頃から採用作品がリリースされている模様。非営利なら無料で使用可。入手するには公式サイト掲載のメールアドレス宛に連絡する必要があります。文法は吉里吉里(KAG)ライク。
モバイルアプリにいち早く対応したエンジンと思われます。Windows, iOS, Android向けに出力可能。2019年春よりブラウザ対応(試用段階)が始まったようです。尚、tales&Vivid様がブログ記事にて詳しくご紹介されています。
作品:
Light.vn
無料。2013年頃?から現在まで盛んに開発が進められています。筆者もこれで掌編を作りましたが、スクリプトを書いてすぐプレビューで確認できるので開発しやすいです。公式Discordでのサポートも受けられます。
若いエンジンゆえ注意事項も多いです。まず、ブラウザ版は当面出力できないと思っておいた方が安全です。自分も試しましたが無理でした(公開当初は出来たが追加仕様のHTML5対応が追いついていない?)。因みにPLiCyに若干投稿されています。※v10.6より一新?
次に、アップデートは盛んですがバージョン間で互換性が無い部分があり、制作中に新しいバージョンが出ても乗り換えるのは難しいようです。従って制作が長期化する場合は注意が必要です。個人的には、上記が解決されるような安定バージョンが出ると人に勧めやすくなるので今後の展開に期待したいです。
作品:
Ren'Py
海外製エンジン。無料。当方がメインで使用しているエンジンです。詳しくはRen'Py部屋にて。
初版公開は2004年で安定感◎。英語圏のビジュアルノベルは殆どRen'Py製。日本語対応も昨今かなり進んでいます。ただ、まだまだ日本人ユーザーが多くないのと、吉里吉里ライクの文法に慣れている方にはハードルが高いのかもしれません。
Windows, mac, Linux, Android, iOS向けにリリースできます。2019年よりブラウザ版もβ版としてサポート(iPhoneからプレイすると不安定)。
作品:
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crAsm作品x2(紹介略)
WOLF RPGエディター (ウディタ)
無料。2008年に初版リリース。最新版は2018年。公式がコンテスト(ウディコン)を毎年実施しています。次回は2021年7月。本来RPG用のツールですが幾つかビジュアルノベルも制作されています。操作感が独特な部分もありますが、大抵の作者様はプレイヤーが困らないように工夫してくださっていると思います。
対応OSはWindowsの他、PLiCyにブラウザ作品もあるようです(PLiCy ウディタ作品・投稿方法)。
作品:
【サポート終了エンジン】
LiveMaker
2011年頃から利用されているエンジン。無料。2018年で開発・サポート終了。現在はふりーむ!からダウンロードできます。GUIで開発できて且つ完成作品の動作も比較的安定しているため、昨今でも根強く利用されている印象を受けます。
対応OSはWindows。
作品:
NScripter
無料。吉里吉里(後述)と同時期に流行ったエンジン。安定感がある点も吉里吉里と同様。2015年にセキュリティ問題への対応、2018年にバグへの対応で更新されていますが、それより前までに概ね開発が終了しているとも読み取れます。尚、同じ開発者による後継のNScripter2も存在するようで、こちらは最新版が2017年となっています。
※ここ1~2年の開発状況が確認できないなどの理由でサポート終了エンジンに分類していますが、明確な終了宣言は確認できていません。
対応OSはWindowsのみ。但し、非公式のONScripterというツールで他のプラットフォーム向けに出力することも出来るそうです。また、一時期はPLiCy(ブラウザゲーム投稿サイト)で公開できたようですが現在は非対応となっているようです。
作品:
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モバイルアプリ版はONScripterによる
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YU-RIS
無料。吉里吉里やNScripterほどではないが時々見かけるエンジン。2010年頃から作品が出ている模様。公式HPの更新は2014年で止まっています。記憶の範囲では、YU-RIS製の作品を遊んでいて不具合や不便な点を見つけたことは特に無かったと思います。
対応OSはWindows。
作品:
吉里吉里2・吉里吉里Z
無料。概ね2000年代からよく見かけるエンジン。吉里吉里2最新版は2010年。公式HPは2017年12月末で閉鎖となっています。別の開発者によって後継の吉里吉里Zが公開されており、最新版は2017年。
対応OSはWindows向けのみと思われます。一部でweb版を生成する試みなども見られますが、まだ一般的な制作者が気軽に手を出せる状態ではなさそうです。吉里吉里で制作された作品は基本的な機能(セーブ・スキップなど)に安定感があり、安心してプレイできるものが多いです。
作品:
ラノゲツクールMV
有料。2017年12月の発売からわずか半年で公式サイトの更新が停止(Steamの方には年1回ほど更新履歴の投稿がある)。
商業エンジンで7000円するにも関わらずエンジンのバグなど様々な問題があるそうです。プリセット素材だけは豊富なようですが。同社の商品であればRPGツクールMV(2015年発売)の方がビジュアルノベルの制作によく使われている印象です。尚、英名は「Visual Novel Maker」で英語にも対応している模様。
Windows・Mac・Android・iOS・HTML5(ブラウザ版)に対応しているとHPには記載されていますが、今のところ実例を発見できていません。
貴重な完成作品:
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僕は女装で彼女はレズで (対応OSはWindowのみ)
参考) この作品のレビューの後半でもシステム面について言及しています
【その他】
crAsmビジュアルノベルリスト2020への投稿作品はありませんが、少々綴らせてください。
SKYNovel
無料。2018年頃より登場。文法は吉里吉里ライク。尚、前身はAIRNovel。採用作品はまだ少なめですがふりーむ!へのブラウザ投稿は実績があります。サクサク動きます。尚、現在iOSで不具合の出る機能が一部あり、それを使用していない作品に限りiOSからもブラウザプレイが可能とのことです。
吉里吉里系の文法が使える方、どなたか使ってみませんか...??
Unity
個人なら基本無料で使用可。ビジュアルノベルノベル特化ではありませんが、とにかく有名な汎用ゲームエンジン。特に3D描写が得意なイメージ。各種OS・デバイス向けに出力可能(なはず)。
言語はC#ですが、全部C#で書くというよりはアセット(プラグインのようなもの)を使うのが一般的かと思います。ですが、アセットが安くない・本体の更新によりアセットが正常に機能しなくなる・アセットが開発終了となるなどのハードルや懸念事項はありそうです。ビジュアルノベル向けのアセットとしてよく聞くものは「宴($80)」「Naninovel($150)」など。
コミックメーカー
2000年台によく利用されていたGUIエンジン。無料。スキップやバックログが無くプレイヤーとしては何かと不便でしたが、当時はお絵かきソフトも今ほど優秀でなく、音源もMIDI、下手するとpngファイルが黎明期…な状況で、作品を完成させられるだけでスゴい!という時代だったと記憶しています。制作歴の長い方のHPに行くとこのエンジンの作品に出会えることがあります。
ティラノスクリプト/ビルダー
有料要素あり。2013年頃から登場。Windows, mac, ブラウザ版向けの出力、およびアプリ化が可能。数年前より日本のビジュアルノベル(ノベルゲーム)に最も多く使用されているように見えます。GUIツール・吉里吉里(KAG)ライクの文法・いち早くブラウザ版に対応・見栄えの良い専用投稿サイトとそこでのコンテスト(フェス)…この辺りが一躍有名となった主な要因かと思われます。
圧倒的なシェアやフェスへの注力ぶりの割には、デフォルト(制作開始時点)で基本機能が実装されていなかったり、必要な情報に辿り着けない、動作が重いなど制作者にとってもプレイヤーにとっても気になる点が幾つかあります。
ティラノビルダー(GUI)には無料版と有料版がありますが、有料版の機能を一部制限しているのが無料版のようです(参照元)。無料版はあくまで評価版であり最終的には有料版を買うことになる、と考えておく方が安全だろうというのが個人的な解釈です。
また、専用投稿サイトであるノベルゲームコレクションでも有料会員にならないと正確なダウンロード数が確認できない(参照元)など、何かと"人が欲しがる要素"を有料にしていて(まさにビジネス?)、且つ、使い始めないと何にお金がかかるか殆ど確認できないようなので注意した方が良さそうです。課金するor課金要素が現れたら諦めるという覚悟ができる方にだけ自分は勧めます。
当方は制作経験がほぼ無く(挑戦したが音を上げた)、不明な点も多いです。詳しくは使用実績のあるtales&Vivid様のブログ記事も是非ご覧ください。
【雑感】
かねてより感じていることですが、この数年でビジュアルノベルエンジンに関して様々な変化があったと思います。吉里吉里やNScripter、LiveMakerなど(以下旧世代エンジン)が相次いでサポート終了となったり、新しいエンジン(以下新エンジン)が生まれたりですとか。
新エンジンについてはまだ安定性やバージョン間の互換性に課題が見られます。幸いどの旧世代エンジンのゲームも昨今のPCで概ね正常に動くようなので、制作の長期化が見込まれる場合や今まで使用していたエンジンがある場合はそれを当面使い続けるのも一手かと個人的には思います。
例えば
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旧世代エンジンで完成させる
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新エンジンでミニゲームを作る
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1. の作品を新エンジンに移殖する
ですとか。
あとは、新エンジンはエンジン開発者とゲーム制作者の双方の努力で育つものかと思いますので、余裕のある方は新エンジンに挑戦してその発展に貢献するのも一手かと存じます。
以上です。ご覧頂きありがとうございました!
蛇足:
初版の公開日(もとい開発履歴)にすんなり辿り着けるのがYU-RIS・Ren'Py・ウディタ・ラノゲツクールMVくらいなのですが、一般にソフトウェアのそういう標準的な情報は手が届きやすいところに置かれるものではないのでしょうか…?Wikipediaの本文から読み取ったりふりーむ!で一番古い作品探したりと、確認が大変でした。まぁエンジンの歴史を調べようととかする変人なんて自分くらいしか居ないのかもしれませんが。